ずーっとずっと、だいすきだよ

ずいぶん大人になって、ハンス・ウィルヘルム作「ずーっとずっと、だいすきだよ」の絵本を読んだ時、私は思わず涙してしまった。
私が飼っていた、小鳥の〇〇への想いが込み上げてしまったから。
小学生の頃、クラスでは色々な生き物を飼っていた。
カニとか、ヤモリとか、男の子たちが捕まえてクラスに持ってきていた。
誰が持ってきたのか、つがいの小鳥も飼っていた。
このつがいの小鳥から毎年、雛が生まれ、クラスの後ろの棚には6個の鳥籠が並べられていた。
「鳥の鳴き声がうるさくて、授業に集中出来ない」とクレームを言う保護者も中にはいたらしいけど、
昔は鷹揚な保護者の方が多く、担任の判断の方が優先されていた。
私は飼育係だったから、同じ係りの子と放課後にお世話をしていた。
小鳥たちにとっては迷惑なことだったと思うが、週に一度は運動が必要と、教室の窓を全てしめきり、鳥籠から小鳥を教室に放つことにしていた。
15分くらいしたら、今度は小鳥を捕まえて籠に戻す。
その捕獲作戦が大騒ぎ。
お世話をしていたと言っても、餌をあげたり水を換えたりするだけで、一羽一羽手乗りにさせたり慣れさせた訳ではないから、小鳥にとっては恐怖でしかなかったであろう。
申し訳なかった。
卒業を迎えるにあたり、ホームルームで小鳥を引き取る人を決めることになった。
引き取れない家庭も多かったけれど、我が家はオカメインコを飼っていたから、母に相談すると歓迎してくれた。
私は末っ子から一つ上の、黄色くて少し黒い模様のある小鳥を引き取った。
お世話している時から、この子に特別な気持ちがあったから。
この子の名前は〇〇。
ホームルームでみんなで決めた。
(私にとって、とても大切な名前なので、名前は〇〇とさせて頂きます)
自分の部屋で飼うことになった。
ある時、母から、
「あなたのお部屋に入ったら、〇〇がずっと首を傾げているの。
あなたじゃないって、ちゃんと分かっているみたいよ」
と言われた。
私が部屋に入ると鳴くのに、他の人では鳴かないんだって。
またある時、
「ねぇ、〇〇は、自分の名前を言っているみたいよ」
と母から言われた。
発音しにくい名前だから、私は気が付かなかったけど、そうやって聞いてみると確かに自分の名前を言っている。
私が呼ぶ名前を、ちゃんと覚えていんだ。
〇〇とは長い付き合いとなった。
高校生になり、試験前には夜中まで勉強していた。
夜には〇〇の籠には布をかけていたが、部屋の明かりは籠内に届き、眠れなかったであろう。
部活や何やらで忙しく、籠から出してあげることはあまり無かった気がする。
数年前までは、無理矢理、籠から出されていたのに。
ある時、自分の羽をくちばしでつつき、傷になってしまったので、小鳥の病院に連れて行った。
そうしたら、
「インコって仲間とくちばしでつつき合う習性があって、それを一匹でしている」
ということだった。
そうか、〇〇にはつがいが必要なんだ。
週末、母と一緒に〇〇を連れて小鳥屋さんへ行った。
やはり、気が合う合わないがあるからね。
すると小鳥屋さんは、
「この子はかなり年をとっている。
残念ながら、この子に釣り合う鳥はいない」
と言った。
もっと早く、気がついてあげれば良かった。
〇〇は、昼間私がいない部屋で、ずっと寂しかったに違いない。
〇〇にとっては、私が全てだった。
年をとって初めてわかることがある。
若いって、自分中心でいてしまうものだ。
知らないとは、残酷なことだ。
思えば、〇〇はずっと私の側にいてくれた。
嬉しい時も、悲しい時も。
いつも傍らで、〇〇と自分の名前で鳴いていた。
その時はやってきた。
〇〇はもう、枝に止まる体力はなかった。
鳥籠の下でじっとしている。
私はそっと手のひらに載せて、頭を撫でた。
翌日、〇〇は籠の隅で息を引き取っていた。
(私はなぜあの時、布団に入れて朝まで一緒にいてあげなかったんだろう)
私は泣きながら、〇〇を庭に埋めた。
あれはいつの事だったか、15年程たった頃だったと思う。
友人から占い師に見てもらうから、一緒に行かないかと誘われた。
会ってみると、かなり若く、悪いけどちょっと胡散臭い人だった。
後ろにヘビが見えてギョッとする人がいるとか、見え過ぎて人混みは苦しいとか、自分の話ばかりで、私や友人について、これと言った話しは無かった。
期待はずれで、もう終わりたいと思っていた時、
彼女は私をじっと見ると、
「貴方のそばに黄色い小鳥が見える」
と言ったのだ。
凍りついた。
友人にも言ったことのない、〇〇のことを言い当てられた。
「頑張りすぎないでと言っている」
その頃、私は悶々としていた時期だったので、その言葉を聞いて思わず泣いてしまった。
「ふつう、行く場所があるんだけど、この子は自分の意思で貴方の側にいる」
本当に見えたのかどうか、定かではない。
ただ、その時その言葉に救われたのは確かだった。
「ずーっと、ずっとだいすきだよ」
私はただ、〇〇にそれだけが伝わればいいな。
そう思った。